バイオコミュニケーションズ株式会社
Dr.Kohnoの産業医ワンポイント!

『河野慶三コラム』産業医の方へ

河野慶三先生のコラム連載が始まりました。産業医実務はもちろん、省庁技官などの経験をもとに、豊富な視点で意見を展開していただきます。産業医の方は、人事・総務の方へとそれぞれに向けた記事を、両方ともに連載していきますのでご期待ください。

第12回 健康問題を抱える労働者に対する就業上の措置

 事業者は、健康問題を抱える労働者に対して、的確な就業上の措置を行わなければならない。その根拠は、労働契約法で定められた安全配慮義務である。

 また、労働安全衛生法では、労働契約法が制定される前から、病者の就業禁止(第68条)、健康診断実施後の措置(第66条の5第1項)、長時間労働者に対する面接指導結果に基づく措置(第66条の8第5項)が規定されていた。2015年に導入されたストレスチェック制度でも、第66条の10第6項で同様の規定がされている。

 労働安全衛生法にもとづいて出された「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(公示第6号、平成18年)は、措置を就業制限要休業の2つに分け、就業制限の内容をつぎのように例示している。

  1. 労働時間の短縮
  2. 出張の制限
  3. 時間外労働の制限
  4. 労働負荷の制限
  5. 作業の転換
  6. 就業場所の変更
  7. 深夜業の回数の減少
  8. 昼間勤務への転換

 こうした就業上の措置をいつまで続けるのかが実務上の問題として存在するが、措置はあくまでも一時的なものであり、長期にわたることは想定されていない。指針も、措置後に健康状態の改善が見られた場合には、医師などの意見を聴いたうえで、通常の勤務に戻すなど適切な措置を講ずるよう求めている。
 しかし、健康問題の内容によっては、回復に長時間を必要としたり、元の状態にまでは回復しないことも当然あるので、そうした事例にどう対処するかは個別に判断することが必要だ。たとえば、3か月以上になるような場合には,産業医などの面談を1〜3か月ごとに行い、措置内容の変更や措置継続の必要性を判断していくことになる。元の状態にまでは回復しないことが医学的に明らかになった場合には、残存機能の評価を行って恒常的な措置を講じるが、これは、以前から適正配置とよばれている就業上の措置に該当する。

 適正配置のポイントは、法的な資格を必要とする作業にはそのための有資格者をあてる(たとえば、酸素欠乏作業を行う部署にはそのための資格をもつ作業主任者を配置する)こと、特定の知識や技能を必要とする作業に従事させる場合には事前に教育を受けた者をあてることであるが、下肢の筋力低下がある者に立ち仕事をさせない、コントロールが十分でない意識喪失発作・高血圧・高血糖などの症状がある者を高所作業に従事させないことなども、この適正配置には含まれている。

 ちなみに、適正配置とは意味の異なる用語に適性配置がある。この用語は「適材適所」という意味で使われる。業務内容によって求められる能力や経験が異なることに加えて、人にはそれぞれ得手不得手があるので、従事させる業務をその人のもつ能力、経験、特性に合ったものにすることによって、アウトプットを最大化することが適性配置の目的である。

 最近は、メンタルへルス不調者に対する就業上の措置をどうするかが、話題になることが多い。そのなかに、不調者からの就業上の措置としての適性配置希望がある。その内容は、「私のメンタルヘルス不調の原因は、適性がない営業部門に配属されたことなので、もともとの希望部署である企画部門に異動させてほしい」といったことである。指針の例示でいえば、⑤の作業の転換、⑥の就業場所の変更に該当する。
 これは実務上なかなかの難問である。事業者のもつ人事権と衝突するからである。人事部門からは、「そうしたわがままをきいていたのでは、人事は回らないし職場の規律も保てない」という話が出てくる。このような事例に対する産業医の原則的な対応は、「職場環境に何らかの問題があり、それが従業員のメンタルヘルス不調の背景要因となっている可能性が高いと判断した場合には、配置換えが必要との意見を述べる」というものである。これは、従業員からの適性配置希望に対して適正配置の考え方で対応していることを意味している。
 適性配置をすることは生産性をあげることにも繋がるので、事業者に対して適性配置ができる態勢を整えて実行することはおおいに推奨したい。しかし、産業医の基本的スタンスとしては、適正配置の問題には踏み込むが適性配置については事業者の判断に委ねるのである。

就業上の措置の画像

 そうした判断の根拠は労働契約にある。
労働契約の大原則は、労働者は法令で定められた時間内は事業者の指揮命令下に入り、法令と公序良俗に反する行為および労働契約に書かれていない事項を除きその指揮に従うことである。業務を限定しない労働契約を結んでいる労働者の場合、自分の希望する業務への配置を事業者に要求することはできるが、その要求を受け入れるかどうかを決める権限は事業者にある。(人事・総務向け第10回で紹介した片山組事件の最高裁判所判決は、こうした場合に事業者が踏む必要のある手続きを判示したものである。)

 


医師・スーパーバイザー:河野慶三先生のプロフィール

■医師・スーパーバイザー 河野慶三先生

・名古屋大学第一内科にて、神経内科・心身医学について臨床研究
・厚生省、労働省技官として各種施策に携わる
・産業医科大学、自治医科大学助教授などを歴任
・富士ゼロックスにて17年間にわたる産業医活動
・河野慶三産業医事務所設立
・新横浜ウエルネスセンター所長就任
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