バイオコミュニケーションズ株式会社
Dr.Kohnoの産業医ワンポイント!

『河野慶三コラム』人事・総務の方へ

第17回 いわゆる「試し出勤制度」と労働契約の終了

 厚生労働省が2004年に出した「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(現行の手引きは2012年の改訂版)では、早期の復帰と高い復帰率が期待できるとの理由で、条件付きではあるものの、「試し出勤制度」の導入が推奨されています。

 身体疾患の場合は、一般に検査値や画像など客観的で再現性のあるデータにもとづいて回復状態を判断することができます。しかし、メンタルヘルス不調の場合は、現在のところそうすることができません。産業医は、本人との面接をとおして症状を確認し、話の内容、表情、話し方などから回復の程度を判断しているのですが、その判断の客観性は必ずしも担保されているわけではありません。本人自身にとっても、それまで担当していた仕事ができるレベルまで回復しているかどうかはよくわからないことが多いのです。復帰して1か月もたたないのにまた休んでしまうといった事例が出ることには、こうした事情が存在します。とはいうものの、これは職場にとっても本人にとっても望ましくないことなので、何らかの対策が必要です。

 いくつかの先進的な企業で対策が工夫されました。その代表的なものは、正式な職場復帰を認める前の段階で、つぎの@かAを試みることでした。

  1. 通常の時間帯に職場まで通勤させる。職場での作業は一切させない。
  2. 勤務時間を調整し、段階的に通常勤務に戻す。管理監督者が指揮をし、職場で何らかの作業を行わせるが、この作業は業務ではない。
自力で安全に通勤ができ、定時時間の勤務が週5日継続できるレベルまで回復していることが、職場復帰可能と判断する原則です。

 @はラッシュ状態であっても、週5日継続して安全に通勤できることを確認すれば復帰を認める制度です。 確認するための期間は2週間程度です。出社できない日が数日続くと、通常の通勤は困難と判断します。その時点で試し出勤は終了し、再度休務となります。Aはたとえば第1段階は10:00〜15:00の半日、第2段階は朝・夕どちらかの通常の時間帯に延長、第3段階で定時に戻すといった方法です。2週間単位で行うと6週かかることになります。Aでも、第1段階で出社できない日が数日続くと、通常の通勤は困難と判断しますが、第2、第3段階では状態によって条件設定を変更して継続することもあります。ただしこの場合も、3か月を超えて漫然と続けることは避けます。

 @の場合は、復帰後の業務負荷が健康に及ぼす影響はわかりません。Aにはどの程度の回復状態かを確認するためのプロセスが入っています。このプロセスによって、従業員本人は自分の回復状態を自覚することができ、管理監督者は直接従業員の回復程度を把握することができます。

 正式な復帰はしていないので、@Aともに出社途上の事故の扱い、Aの場合は管理官監督者の指揮を受けて作業をしていることが労働基準法でいう労働に該当する可能性が問題となります。この問題については、いまだに正式な決着はついておらず、個々の問題が提起された段階で個別に判断するという建前になっています。

 このように、いわゆる「試し出勤制度」の目的は、メンタルヘルス不調者の職場復帰を支援することです。その目的からすれば、2か月を超える試し出勤は一般的ではありません。2か月かかっても通常勤務ができないということは、メンタルヘルス不調の回復が十分でないことを意味しています。再度休んで療養に専念させなければなりません。
 再度の休務中に就業規則で定めた休職期間が満了する場合は、事業者は就業規則の規定にしたがって労働契約を終了すれば、手続き的には何も問題がありません。試し出勤期間が長くなると、その期間中に休職期間が満了になるといった事態が生じるリスクがあります。「休職期間満了時に、従業員は復帰できる状態である可能性は否定できない。試し出勤の間は、事業者は就業の可否の判断をまだしていない。判断保留状態なのに労働契約を終了していいのか」という理屈です。もう少し踏み込んで言えば、「健康状態は回復しているかもしれないのに、事業者が意図的に試し出勤の期間を延ばし、契約満了に持ち込む手段にしている」と言われるリスクがあります。それが事実だとすれば、事業者は試し出勤制度を悪用していることになります。この問題が争点のひとつになっている裁判例があり、現在、名古屋高等裁判所で係争中です(NHK名古屋放送局事件 名古屋地裁 平成29年3月28日判決)。

 試し出勤は、労働契約の終了の判断をするために行うものではありません。日頃から、時間的な余裕をもたせて計画すること、試し出勤の期間を長くしないことに心がけ、試し出勤の成否が職場復帰の可否の判断に直接繋がらないように配慮してください。

 
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