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『河野慶三コラム』人事・総務の方へ

第18回 パワーハラスメント

 ハラスメントが大きな社会問題になっています。ハラスメントのなかでは、セクシャルハラスメント、マタニティハラスメント、育児・家族介護に関するハラスメント、パワーハラスメント、アカデミックハラスメントなどがよく知られています。ハラスメントが生じる状況や場によってこうしたネーミングがされていますが、ハラスメントに共通しているのは、加害者の側に被害を受ける者の人権に対する配慮が欠けていることです。

 職場におけるハラスメントの一部には、既に事業者に対する法的な規制があります。「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(雇用機会均等法)」は、第11条でセクシャルハラスメント、第11条の2でマタニティハラスメントについて、事業者に管理責任を課しています。また、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)」は育児、家族介護に関するハラスメントについて、事業者に同様な管理責任を負わせています。パワーハラスメントについては、現在は法的な規制は行われていません。ただし、パワーハラスメントによる心理的な負荷によって発病したと認定された精神障害については、労働者災害補償保険法による保険給付の対象になっています。

 ところで、都道府県労働局が行っている「いじめ・嫌がらせ」相談の件数を見ると、年々その数が増えています。2017年の「精神障害の補償状況」を見ても、ひどいいやがらせ、いじめ、暴行による労災認定が88人、全認定者の17.4%を占めていました。この問題には何らかの対策が必要な状態になっていると言っていいでしょう。国は、2017年3月に閣議決定した働き方改革実行計画でこの問題を取り上げ、防止対策強化に向けた検討を行うことにしました。
 閣議決定にもとづいて厚生労働省が設置した職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会は、2018年3月に報告書を出すとともに、労働政策審議会での審議を求めました。審議会では、ハラスメント対策を法律にもとづくものにするか、通達ベースで行うかが問題になっているようです。立法するとすれば、2019年の通常国会に法案を提出し、国会審議を経て、遅くとも2020年には規制が行われることになります。

 いずれにしても、パワーハラスメントをどう定義するかから始めなければなりませんが、職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告(2012年)では、パワーハラスメントを「同じ職場で働く者に対して職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的な苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為」と定義しています。

 今回の報告書は、定義の形で示すことをせず、パワーハラスメントと判定するための条件を提示しました。その条件は、下記の3要素がすべて認められることです。この3要素はワーキング・グループ報告の定義にすべて含まれており、内容として新しい点はありません。

  1. 優越的な関係にもとづいて(優位性を背景に)行われること
  2. 業務の適正な範囲を超えて行われること
  3. 身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること

 この3要素による判断は概念的には妥当ではあるものの、報告書が求める一定レベルの客観性をもって線引きをすることは、実務的には相当難しいと考えられます。
 @の優位性の判断は、この3要素のなかでは比較的客観的にできそうです。しかし、Aの業務の適正な範囲については、一般論では規定できず、職場環境を考慮した個別の判断が必要となります。業務の適正な範囲は職場環境によって異なり、それを規定する大きな要因は業務の自由度です。たとえば、指揮命令に従うことを強く求められる職場は、この自由度が低くなります。業務の適正な範囲を考える際には、この業務の自由度を指標にすると客観性が高まる可能性があります。Bの苦痛は本来主観的なものなので、客観性を持った判断をすることは困難です。その対策として、それぞれの職場の「平均的な労働者」を想定して判断することが提言されているのですが、これも種々議論のある問題です。

 対処の基本は、「ハラスメントは人権問題である」との認識を共有すること、そしてハラスメントを受けたと主張する者をまずは受け止めることが基本だと考えます。

 
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