バイオコミュニケーションズ株式会社
Dr.Kohnoの産業医ワンポイント!

『河野慶三コラム』産業医の方へ

第23回 統括産業医って何だろう?

 肩書が統括産業医あるいは総括産業医となっている産業医が目につくようになってきた。産業医は周知のとおり、労働安全衛生法令で一定の要件を備えた医師として規定され(医師であれば誰でもなれるわけではないということ)、その選任が50人以上の事業所に義務づけられている。しかし、同法令には統括産業医の規定はないので、これは自然発生的な現象であると推測される。

 私自身の産業医経歴を肩書で示すと、「1994年:富士ゼロックス本社産業医、1998年:富士ゼロックス全社産業医、2009年:ALL−FX統括産業医、2011年:その肩書で退職」である。
 本社産業医は、その守備範囲が文字どおり本社事業所のみで、労働安全衛生法が想定している産業医であった。全社産業医は、私の知る限りでは富士ゼロックス独自の呼称であり、その守備範囲は、子会社を除く、富士ゼロックス本体が日本全国に展開する営業、サービス、製造の全事業所であった。ALL−FX統括産業医は、ALL−FXの文字が示すとおり、内外の子会社を含む富士ゼロックスグループ全体を守備範囲としていた。

 私は、富士ゼロックス本体に安全衛生推進体制を整備し、当時の正規従業員15,000人の多くが健康にかかわるセルフケアが実行できるようにすることを活動のさしあたっての目標としていた。そのためには、その方針について事業者の賛同を得ること、必要となる組織の構築に同意してもらうことが不可欠であった。全社産業医はまさにそれを実行するためのポストであり、本社産業医の4年間はその準備期間でもあった。
 全社産業医としては、健康診断後の全員面談を核とした活動を全国展開することを前提とした体制づくりを進めた。実行部隊としての産業医、保健師、専任の衛生管理者を確保し、活動に必要な費用を事業者に予算化してもらった。この作業は人事部長の指揮にもとづく人事部との協働作業であった。さらに、企業としての従業員の健康に関する基本的な考え方を経営会議で決定してもらい、就業規則に盛り込んだ。それをベースにして従業員と管理監督者への健康教育、健康相談を継続して行った。また、産業医・保健師・衛生管理者の協働作業が円滑に進むようにするための調整、活動レベルを維持・向上するための教育・指導・助言も担当した。企業外への情報発信も積極的に行い、外部からの講演依頼やマスコミの取材は原則として断らないことにしていた。ただ、産業保健スタッフの人事評価はしなかった。
 全社産業医としての活動はおおよそそうしたものであった。振り返ってみれば、これは富士ゼロックス本体を守備範囲とする統括産業医活動であったと言えるだろう。ただ、この活動は、私が意図的に行ったものであり、自然発生的なものではなかったことは付け加えておきたい。
 その後、製造工場の子会社化、サービス部門の子会社化、研究開発部門の子会社化、子会社による海外事業の展開など、経営の内容が大きく変化したこともあって、本体の従業員数が大きく減少し、子会社の従業員数がはるかに多くなるといった事態が生じた。私としては全社産業医のままでよかったのだが、こうした流れの中で、ALL−FX統括産業医になることになった。ここでは、法人としては別組織である多数の子会社の体制整備をどう進めるかが大きな課題になった。

 私の活動を一事例として略記したが、現在、統括あるいは総括産業医と呼ばれる産業医の実態は、その数も含めて把握されていない。冒頭でも述べたように、実感としてはその数が増えている。企業統治のあり方が大きく変化し、健康経営など従業員の健康の問題に企業グループで対応する流れができつつあることがその背景にあるのではないかと推測される。そうであるとすれば、今後の需要増が必然性をもって見込まれるので、統括産業医・総括産業医の実態を把握し、現状の問題点を整理しておくことが必要であろう。

 そうした目的で、この5月に名古屋で開催される、第92回日本産業衛生学会の自由集会で、「全社的産業保健マネジメントを担う統括産業医等の現状」をテーマとしたディスカッションを行なうことになった。関心のある方は、5月24日(金)15:00〜16:30 第8会場 (2号館3階 会議室234)で行われる「産業保健の統括マネジメント研究会」においでいただきたい。


追記:
この問題には、早くから産業医科大学の森 晃爾教授のグループが関心をもって取り組んでいる。2011年7月には、産業医科大学産業医実務研修センターの主催で、「企業・企業グループ全体で整合性の取れた産業保健を推進するために!〜統括産業医・総括産業医の機能〜」をテーマとしてシンポジウムが開催され、2012年3月にその報告書が出ている。
また、統括産業医12人の聞き取り調査をまとめた「企業全体で産業保健を展開するための統括産業医の機能と位置づけ」(森 晃爾、他:産業衛生学雑誌、55:145−153,2013)が報告されている。

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