河野慶三コラム 人事・総務の方へ

第26回 パワーハラスメント対策の法制化
2019年 9月4日

 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第24号)が去る5月29日に成立し、人事・総務向け第18回で話題として取り上げたパワーハラスメント対策が新たに法制化されました。

 この法律によって、つぎの5本の法律が一括して改正されたのですが、新しい法律の名前となった@の「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」にはハラスメントに関する規定はありません。

  1. 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成27年法律第64号)
  2. 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用安定及び職業生活の充実等に 関する法律(昭和41年法律第132号)
  3. 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保に関する法律(昭和47年法律第113号)
  4. 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)
  5. 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号)

 パワーハラスメント対策の根拠となる法律はAです。
 既に法制化されている、セクシャルハラスメントとマタニティハラスメントはBで、育児・介護にかかわるハラスメントはDで、Aの規定と整合性をとるための条文の追加が行なわれました。
 Cでは、派遣労働者について、派遣先の事業主にもAの規定を適用することが新たに定められました。

 人事・総務向け第19回で紹介しましたが、Aの「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用安定及び職業生活の充実等に関する法律」は、従来は雇用対策法とよばれていたもので、2018年に成立した働き方改革関連法で、法律名が変更されました。法律名が長いので、労働施策総合対策法と略称されています。
 改正前の労働施策総合対策法はその第4条で、法の定める目的を達成するため、別表に示した13の施策を国の取り組むべき施策として定めていましたが、今回の改正で、職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決を促進するために必要な施策を充実することが14番目の施策として追加されました。さらに、法の第8章が、職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等(第30条の2〜第30条の8)として新設されました。これらの条文によって、パワーハラスメント対策が事業主の法的な義務となりました。

 改正後の労働施策総合対策法の第30条の2は6項で構成されていますが、その第1項、第2項を以下に示します。

(第1項)
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

(第2項)
事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 事業主が法律上の義務としてしなければならないことは、雇用管理上の措置の実施と相談にかかわる労働者の不利益な取り扱いの禁止です。雇用管理上の措置について言えば、具体的に示されている措置は、労働者からの相談に応じ、適切に対応するための体制の整備のみであり、これでは、実際に事業主がしなければならないことがはっきりしないのですが、「事業主が講ずべき措置に関する指針」を厚生労働大臣が定めるとされているので(法第30条の2第3項)、詳細はこの指針で明らかになるでしょう。指針待ちということになりますが、指針の策定には労働政策審議会の意見を聴くというプロセスが入ることもあり、その公示がいつになるかは、今のところはっきりしていません。

別表 労働施策総合対策法第4条で定められていた13項目の国の施策

  1. 労働時間の短縮その他の労働条件の改善、多様な就業形態の普及、雇用形態・就業形態の異なる労働者の間の均衡のとれた待遇の確保
  2. 職業指導・職業紹介に関する施策の充実
  3. 職業訓練・職業能力検定に関する施策の充実
  4. 労働力労働者の職業の転換・地域間の移動・職場への適応などを援助するために必要な施策の充実
  5. 事業規模の縮小などの際に、失業を予防するとともに、離職を余儀なくされる労働者の円滑な再就職を促進するために必要な施策の充実
  6. 女性の職業の安定・子の養育または家族の介護を行う者の職業の安定を図るため、雇用の継続・円滑な再就職の促進・母子家庭の母および父子家庭の父ならびに寡婦の雇用の促進その他のこれらの者の就業を促進するために必要な施策の充実
  7. 青少年の職業の安定を図るため、職業についての青少年の関心と理解を深めるとともに、雇用管理の改善の促進・実践的な職業能力の開発および向上の促進その他の青少年の雇用を促進するために必要な施策の充実
  8. 高年齢者の職業の安定を図るため、定年の引上げ・継続雇用制度の導入等の円滑な実施の促進、再就職の促進、多様な就業機会の確保その他の高年齢者がその年齢にかかわりなくその意欲及び能力に応じて就業することができるようにするために必要な施策の充実
  9. 疾病・負傷その他の理由により治療を受ける者の職業の安定を図るため、雇用の継続・離職を余儀なくされる労働者の円滑な再就職の促進その他の治療の状況に応じた就業を促進するために必要な施策の充実
  10. 障害者の職業の安定を図るため、雇用の促進・職業リハビリテーションの推進その他の障害者がその職業生活において自立することを促進するために必要な施策の充実
  11. 不安定な雇用状態の是正を図るため、雇用形態および就業形態の改善などを促進するために必要な施策の充実
  12. 高度の専門的な知識または技術を有する外国人の我が国における就業を促進するとともに、労働に従事することを目的として在留する外国人について、適切な雇用機会の確保が図られるようにするため、雇用管理の改善の促進および離職した場合の再就職の促進を図るために必要な施策の充実
  13. 雇用機会が不足している地域における労働者の雇用を促進するために必要な施策の充実
  14. 1)〜13)のほか、職業の安定、産業の必要とする労働力の確保などに資する雇用管理の改善の促進その他労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするために必要な施策の充実

このコラムの執筆者プロフィール

河野慶三先生

河野 慶三 氏(新横浜ウエルネスセンター所長)

名古屋大学第一内科にて、神経内科・心身医学について臨床研究。
厚生省・労働省技官として各種施策に携わる。
産業医科大学、自治医科大学助教授など歴任。
富士ゼロックスにて17年間にわたり産業医活動。
河野慶三産業医事務所設立。
日本産業カウンセラー協会会長歴任。
平成29年より新横浜ウエルネスセンター所長に就任。