第27回 健康問題で休務中の労働者に対する産業医のかかわり方
2020年 1月6日

健康上の問題があって休務している労働者への対応は、安全配慮義務の実行責任を負っている管理監督者が行うことが原則である。管理監督者は、部下である労働者が就業可能な健康状態にあるかどうかを含む生活情報を定期的に把握しなければならない。したがって、健康問題の背景に直属の上司との人間関係など特段の事情がある場合を除き、休務中の労働者の窓口は直属の上司である。この原則に従えば、管理監督者や人事担当者からの依頼がない限り、産業医には休務中の労働者にかかわる法制度上の役割はない。産業医が必ずかかわらなければならないのは、労働者が職場復帰の意思を明らかにし、主治医による復帰可能である旨の診断書を管理監督者に提出した段階からである。
休務中の健康問題への対応は、当然、診療を担当している主治医が行う。産業医が安易に口をはさむことは避けるべきである。ただし、休務中のどの段階であっても、健康問題について労働者から相談がある場合は産業医が応じる。
しかし実務上、このやり方では、つぎの@〜Cなどの情報の入手が困難であり、産業医が復帰の可否について的確な判断をするために必要な情報が不足するので、産業医は主治医の意見を丸呑みせざるをえなくなる。
- 休む原因となった病気の具体的な症状・程度・経過、発症の背景
- 治療方針、治療の具体的な内容、治療に対する反応、病状の推移
- 生活リズムの状態とその推移
- 労働者の仕事に対する考え方、姿勢、意欲などの動き
たとえば、労働者が復帰を焦り、「復帰可」の判断を主治医に強く求めるといった事態はよくあることだが、これに対する判断が適切でないと、復帰直後に健康状態が悪化し、休務に逆戻りすることが多い。こうした問題の発生を防ぐには、休務中に月1回くらいの頻度で産業医面談を行うことが役立つ。この面談をとおして、産業医は、労働者との関係を構築し、@〜Cなどの情報を自分の手で集める。さらに、労働者本人を介して主治医との連携を深めておくこともできる。そうしておけば、復帰の可否の判断に際して、主治医に「職場復帰支援に関する情報提供」を依頼する必要もほとんど生じない。
ただ、この産業医面談を行うにはつぎの諸点に注意する必要がある。
- この面談は休務中の労働者の復帰を支援することを目的としており、強制するものではない。労働者からの質問には積極的に回答してよいが、指示的な発言は控える。あくまでも情報提供である。話を聴くことが中心となるので、産業医に「傾聴力」がないとこの面談は機能しない。
- 主治医に対する批判的な言動をしない。労働者が主治医に対して不満をもっている場合には、そうなったプロセスを語ってもらい、本人がその不満について主治医と話し合えるように支援する。
- 労働者と産業医が「管理監督者とシェアしておいた方がいい」と合意した情報は、原則として労働者が管理監督者に伝える。
- 面談の要点を必ず記録に残す。この記録は労働者からの開示要求の対象となる。記録にアクセスできるのは産業医・保健師・看護師とするが、必要であれば公認心理師など心理職を加えてもよい。
- 面談の対象者は一人で会社に安全に来ることができる程度に症状が改善している者とする。来社途上の事故対応についての社内コンセンサスを得ておく。
厚生労働省が出している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(2012年)」(この手引きには法的な裏付けはなく、国の行政指導用の文書でもないが、多くの企業はこの文書に準拠した対応を実際に行っている)では、産業医の役割が包括的に、つぎのように述べられている。
「産業医等は、職場復帰支援における全ての過程で、管理監督者及び人事労務担当者の果たす機能を専門的な立場から支援し、必要な助言及び指導を行う。特に、労働者の診療を担当している主治医との連携を密にし、情報交換や医療的な判断においては、専門的立場から中心的な役割を担う。労働者や主治医から知り得た情報についてはプライバシーに配慮しながら、関係者間で取り扱うべき情報について調整を行い、就業上の配慮が必要な場合には事業者に必要な意見を述べる立場にある。」(下線は筆者)