河野慶三コラム 人事・総務の方へ

第29回 「パワーハラスメントによる精神障害」が労災認定の正式な対象となりました
2020年 6月1日

 厚生労働省労働基準局長通達「心理的負荷による精神障害の労災認定基準 の別表1「業務による心理的負荷評価表」が改正され(令和2年 基発0529第1号)、パワーハラスメントが新たに「具体的な出来事29Dパワーハラスメント」として記載されました。これによって、パワーハラスメントによる精神障害が正式に労災認定の対象となりました。
 今回の改正は、労働施策総合対策法第30条の2第1項の規定「事業主の講ずべき雇用管理上必要な措置の実施」が(人事・総務向け第26回参照)、2020年6月1日に施行されることに合わせて、法令の内容と心理的負荷評価表の内容の整合性を整えるために行われたものです。新評価表は、同日以降受付分から適用されます。

 パワーハラスメントに関連した精神障害は、今までも、旧評価表の具体的な出来ごと29D「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」で評価されており、今回は評価に関する基本的な考え方も変わっていないので、認定の実務にはこれといった変化は生じないでしょう。しかし、パワーハラスメント対策の実施が法令上の事業主の義務とされ、心理的負荷評価表の見出しにパワーハラスメントが明記されたことは、労働者の労災申請を促進する方向に作用するものと推測されます。
 なお、旧評価表の29Dは新評価表では30E「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に変更されています。

 こうした改正がどのような経緯で行われたかについて関心がある方は、5月に出た「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告」(座長:黒木宜夫 東邦大学名誉教授)をご覧下さい。厚生労働省にアクセスすれば、全文を入手できますが、参考のため目次を示しておきます。

「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」目次

  1. はじめに
    1. 検討会開催の背景等
    2. 検討状況
  2. 検討の視点
    1. パワーハラスメント防止対策の法制化等を踏まえた検討
    2. 今後の検討
  3. 業務による心理的負荷評価表に係る具体的出来事等への追加
    1. 具体的出来事等へのパワーハラスメントの追加
    2. 平均的な心理的負荷の強度
    3. 心理的負荷の強度を判断する具体例
    4. 心理的負荷の総合評価の視点
  4. 業務による心理的負荷評価表に係る具体的出来事等の修正
    1. 「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」
       ア 具体的出来事の修正
       イ 平均的な心理的負荷の強度
       ウ 心理的負荷の強度を判断する具体例
       エ 心理的負荷の総合評価の視点
    2. その他の対人関係の出来事
  5. 業務による心理的負荷評価表の修正
  6. 業務起因性の評価の範囲
  7. まとめ
  8. 別紙1 業務による心理的負荷評価表における具体的出来事等(新旧対照)
  9. 別紙2 業務による心理的負荷評価表(抜粋)

このコラムの執筆者プロフィール

河野慶三先生

河野 慶三 氏(新横浜ウエルネスセンター所長)

名古屋大学第一内科にて、神経内科・心身医学について臨床研究。
厚生省・労働省技官として各種施策に携わる。
産業医科大学、自治医科大学助教授など歴任。
富士ゼロックスにて17年間にわたり産業医活動。
河野慶三産業医事務所設立。
日本産業カウンセラー協会会長歴任。
平成29年より新横浜ウエルネスセンター所長に就任。