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【 第3回 】労働契約
2021年 6月3日(河野慶三コラム:通算 第33回)

第3回労働契約の画像

 事業主と労働者の関係は、両者が労働契約を結ぶことで成立します。この契約によって、労働者には事業主に労働を提供する義務、事業主は提供された労働に対して賃金を払う義務がそれぞれ発生します。労働契約という用語は労働基準法の第2章で用いられていますが、同法には労働契約そのものを定義する条文はありません。

 民法を見ると、第623条に雇用契約についての規定があり、「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる」となっています。この場合の当事者は事業主と労働者です。したがって、雇用契約とは、「労働者が事業主に対して労働に従事することを約束し、事業主がこれに対して報酬を与えることを約束すること」です。

 雇用契約は、その理念として双方の対等な関係を前提としているのだが、現実を直視すると、両者の関係は対等ではありません。経済力、情報量など、多くの点で事業主が優位です。雇用契約の実効性を担保するには、この問題を解決する必要があります。

 ちなみに、労働基準法や労働契約法などの労働法は、制度上民法の労働に関する定めを補完する法律として位置付けられています。そこで、労働基準法や労働契約法などは、事業主に一定の義務を負わせることによって、事業主と労働者の関係が対等になるよう注力しています。その意味で、労働契約は、民法の規定である雇用契約に、労働基準法や労働契約法による労働者保護の施策を加えたものであるということができます。 実際、労働契約法の第3条は労働契約の原則をつぎのように定めており、事業主と労働者の力関係のバランスを保つことが配慮されています。

  1. 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
  2. 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
  3. 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
  4. 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
  5. 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

 さらに、労働契約法の第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定し、労働契約に付随する事業主の義務として安全配慮義務を課しています。

 労働契約について、労働者側が理解しておく必要があるのは、契約した時間中は事業主の指揮下に入り、その命令に従った労働をしなければならないことです。業務内容が限定されてない契約(正社員の場合は大部分がこれに該当します)では、例外は、その命令が法令に違反する場合と公序良俗に反する場合に限られます。労働契約上は、労働者の希望に沿った業務に着かせることは必ずしも求められていないのです。もちろん、契約時間外は、事業主が労働者を指揮することは原則としてできません。

 次回は、安全配慮義務です。

このコラムの執筆者プロフィール

河野慶三先生

河野 慶三 氏(新横浜ウエルネスセンター所長)

名古屋大学第一内科にて、神経内科・心身医学について臨床研究。
厚生省・労働省技官として各種施策に携わる。
産業医科大学、自治医科大学助教授など歴任。
富士ゼロックスにて17年間にわたり産業医活動。
河野慶三産業医事務所設立。
日本産業カウンセラー協会会長歴任。
平成29年より新横浜ウエルネスセンター所長に就任。