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【 第5回 】労働安全衛生法が定める労働衛生管理体制(1)
2021年 7月8日(河野慶三コラム:通算35回)

第5回労働安全衛生法が定める労働衛生管理体制(1)の画像

―ヒューマンリソースと衛生委員会―

 労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を守り、快適な職場環境を維持することを目的として、事業者に「安全衛生管理体制」を整備することを義務づけています。安全衛生管理体制は、安全管理体制と衛生管理体制に分けられますが、ここでは後者の衛生管理体制について述べます。 衛生管理体制は、衛生管理を担う人(ヒューマンリソース)と審議機関である衛生委員会で構成されています。

1. ヒューマンリソース

 選任が義務づけられているヒューマンリソースの主なものと、それを規定した労働安全衛生法の条文の番号はつぎのとおりです。

  1. 総括安全衛生管理者(第10条)
  2. 衛生管理者(第12条):50人以上の事業場
  3. 衛生推進者(第12条の2):10人以上50人未満の事業場
  4. 産業医(第13条):50人以上の事業場
  5. 作業主任者(第14条)

 なお、建設業など特殊な事業形態をとる業種では、この他に統括安全衛生責任者・元方安全衛生管理者・店社安全衛生管理者・安全衛生責任者を置くことも義務づけられています。

 @の総括安全衛生管理者の職務は、安全管理者・衛生管理者などを指揮することと、つぎの事項を統括管理することです。

  1. 労働者の危機または健康障害を防止するための措置
  2. 労働者の安全または衛生のための教育の実施に関すること
  3. 健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置
  4. 労働災害の原因の調査および再発防止対策に関すること
  5. (1)〜(4)に掲げるもののほか、労働災害を防止するために必要な業務で、労働安全衛生規則第3条の2で定めるつぎのもの
    ・安全衛生に関する方針の表明に関すること
    ・法第28条の2第1項または第57条の3第1項および第2項の危険性または有害性等の調査およびその結果に基づき講ずる措置に関すること
    ・安全衛生に関する計画の作成、実施、評価および改善に関すること

 統括管理とは、(1)〜(5)が適切かつ円滑に実施されるよう所用の措置を講じ、かつ、その実施状況を監督するなど当該業務について責任をもってとりまとめること、と説明されています。

 統括管理の実効を担保するため、労働安全衛生法は、総括安全衛生管理者には工場長・営業所長・支店長など、その事業場の管理責任を負う者から選任するよう求めています。ですから、総括安全衛生管理者は、事業場における衛生管理の最高責任者ということになります。このように、総括安全衛生管理者は労働者の健康に関する専門的な知識やスキルを持った人ではありませんが、事業場の衛生管理体制が機能するかどうかを左右する存在です。

 なお、総括安全衛生管理者の選任義務が生ずる事業場については、業種によってその規模が異なります。建設業・運送業・清掃業・林業・鉱業は100人以上、製造業・通信業・電気業・ガス業などは300人以上、その他の業種は1000人以上となっています。総括安全衛生管理者の選任義務がない事業場では、事業者がその役割を果たします。

 Dの作業主任者は、高圧室内作業、酸素欠乏危険場所における作業、鉛・有機溶剤作業など、労働安全衛生法施行令第6条で定められた多くの作業場に選任義務が課されています。その職務は、労働災害を防止するための管理を必要とするそれぞれの作業場で、労働者を指揮するなど安全衛生に関する管理責任を果たすことです。作業主任者の資格は作業によって異なり、試験による免許、あるいは研修を修了することで得ることができます。

 Aの衛生管理者については第36回、Cの産業医については第37回でそれぞれ取り上げます。Bの衛生推進者については、人事総務向け第7回「衛生推進者を選任しましょう」で詳しく説明しているので、そちらをご覧ください。

2. 衛生委員会

 常時50人以上の労働者を使用する事業場には、調査審議機関として衛生委員会の設置が義務づけられています。これは罰則付きの強制規定です(第120条)。

 衛生委員会の構成員はつぎの4者です。

  1. 総括安全衛生管理者またはそれに準ずる者
  2. 衛生管理者
  3. 産業医
  4. 当該事業場の労働者で衛生に関し経験を有する者

構成員の数には決まりはありませんが、A〜Cのメンバーの半数は、労働組合、組合がない場合は労働者の過半数を代表する者の推薦にもとづいて、事業者が任命します。産業医は必須の構成員です。委員会の議長には総括安全衛生管理者がなります。

 衛生委員会では、つぎに示す労働安全衛生法第18条で決められている事項について調査審議し、事業者に意見を述べます。衛生委員会には執行機能はありません。審議で同意されたことを実行するのは事業者です。もちろん、衛生委員会は労使交渉の場ではありません。

  1. 労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること
  2. 労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関すること
  3. 労働災害の原因及び再発防止対策で、衛生に係るものに関すること
  4. (1)〜(3)のほか、労働者の健康障害の防止および健康の保持増進に関する重要事項

 (4)の重要事項については、労働安全衛生規則第22条に規定があり、別表に示した11項目が挙げられています。
  さらに、産業医の辞任あるいは産業医の解雇に際してはその事実と理由の報告、そして産業医から法にもとづく勧告を受けたときには勧告の内容、勧告を受けて行った措置、措置をしなかった場合にはその理由の報告を、それぞれ衛生委員会にしなければなりません。

 事業者は、衛生委員会を少なくとも月1回開催し、議事の概要をイントラネットなどですべての従業員が見ることができるようにしなければなりません。また、議事の重要事項についての記録を作成し、それを3年間保存しなければなりません。産業医は、衛生委員会に労働者の健康を確保する観点から必要な事項の調査審議を求めることができます。

 このように衛生委員会は、法制度上衛生管理体制の要となる機関です。しかし、多くの企業でその活動が形骸化しており、活性化が叫ばれて久しいのですが、活性化の歩みは遅々としています。衛生委員会の活動は衛生管理者が機能するかどうかに大きく依存しています。産業医が衛生委員会の重要性を強く認識し、衛生管理者に対する指導・助言を積極的に行うことがますます求められています。

 次回は、「労働安全衛生法が定める労働衛生管理体制(2)―衛生管理者―」です。

別表 労働者の健康障害の防止および健康の保持増進に関する重要事項

  1. 衛生に関する規程の作成に関すること
  2. 法第28条の2第1項、第57条の3第1項および第2項の危険性または有害性等の調査およびその結果にもとづき講ずる措置のうち、衛生に係るものに関すること
  3. 衛生に関する計画の作成、実施、評価および改善に関すること
  4. 衛生教育の実施計画に関すること
  5. 法第57条の4第1項および第57条の5第1項の規定により行われる有害性の調査ならびにその結果に対する対策の樹立に関すること
  6. 法第65条第1項または第5項の規定により行われる作業環境測定の結果 およびその結果の評価にもとづく対策の樹立に関すること
  7. 定期に行われる健康診断、法第66条第4項の規定による指示を受けて行われる臨時の健康診断および法第66条の2の自ら受けた健康診断および法にもとづく他の省令の規定にもとづいて行われる医師の診断、診察または処置の結果ならびにその結果に対する対策の樹立に関すること
  8. 労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置の実施計画に関すること
  9. 長時間にわたる労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること
  10. 労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること
  11. 厚生労働大臣、都道府県労働局長、労働基準監督署長、労働基準監督官または労働衛生専門官から文書により命令、指示、勧告または指導を受けた事項のうち、労働者の健康障害の防止に関すること

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このコラムの執筆者プロフィール

河野慶三先生

河野 慶三 氏(新横浜ウエルネスセンター所長)

名古屋大学第一内科にて、神経内科・心身医学について臨床研究。
厚生省・労働省技官として各種施策に携わる。
産業医科大学、自治医科大学助教授など歴任。
富士ゼロックスにて17年間にわたり産業医活動。
河野慶三産業医事務所設立。
日本産業カウンセラー協会会長歴任。
平成29年より新横浜ウエルネスセンター所長に就任。