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【 第6回 】労働安全衛生法が定める労働衛生管理体制(2)
―衛生管理者―
2021年 8月10日(河野慶三コラム:通算 第36回)

第6回労働安全衛生法が定める労働衛生管理体制(2)―衛生管理者―の画像

 労働安全衛生法は、衛生管理者の選任を事業者に義務付けています(第12条)。これは罰則付きの強制規定です(第120条)。衛生管理者に選任できるのは、原則として都道府県労働局長の免許を受けた者です(第72条)。衛生管理者免許には、第1種衛生管理者、第2種衛生管理者、衛生工学衛生管理者の3つがあります。第1種と第2種の違いは、法令で定められた有害業務に関する問題が免許試験で課されているかどうかです。第2種衛生管理者は、有害業務に関する試験を受けていないので、つぎの13業種の事業場では、衛生管理者として選任することができません。

農林畜水産業、鉱業、建設業、製造業(物の加工業を含む)、電気業、ガス業、水道業、熱供給業、運送業、自動車整備業、機械修理業、医療業、清掃業

 衛生工学衛生管理者は、法令で定められた有害業務に従事する労働者の健康管理を、衛生工学に関する知識・技術を用いて推進します。衛生工学衛生管理者を選任しなければならないのは、常時500人を超える労働者を使用する事業場であって、坑内労働または表1に青色で示した@BCDHの業務に常時30人以上の労働者を従事させているところです。該当事業場では、衛生管理者のうち1人は衛生工学衛生管理者でなければなりません(労働安全衛生規則第7条第1項第6号)。
 なお、衛生工学衛生管理者は、上記の13事業場において、第1種衛生管理者として働くこともできます。

 衛生管理者の選任義務があるのは、常時50人以上の労働者を使用している事業場で、その業種は問いません(労働安全衛生法施行令第4条)。この基準は、衛生委員会の設置、産業医の選任の場合と同じになっています。また、衛生管理者はその事業場に所属していることが必要で、他の事業場と掛け持ちすることはできません。ただし、労働衛生コンサルタントが衛生管理者になっている場合はかけもちが可能です(労働安全衛生規則第7条第1項第2号)。
 事業場所属の労働者数が増えると、選任しなければならない衛生管理者数も増えます。200人超〜500人以下:2人、500人超〜1000人以下:3人、1000人超〜2000人以下:4人、2001人超〜3000人:5人、3001人以上:6人と定められています(労働安全衛生規則第7条第1項第4号)。
 さらに、「常時1,000人を超える労働者を使用する事業場」と、表1に示した「労働基準法施行規則第18条」に該当する事業場であって、常時30人以上の労働者を使用しているところでは、衛生管理者のうち少なくとも1人を専任としなければなりません。

 第1種または第2種の衛生管理者免許を得るには、原則として、都道府県労働局長が実施する国家試験に合格することが必要です。衛生工学衛生管理者免許には国家試験はありません。大学か高等専門学校で工学あるいは理学を専攻して卒業した者が厚生労働大臣の定める講習を修了すれば取得できます。
 ただ、労働安全衛生規則第10条は、医師、歯科医師、労働衛生コンサルタント、それに厚生労働大臣が定める者は、試験を受けなくても、第1種衛生管理者の資格を有すると定めています。厚生労働大臣が定める者については、厚生労働省告示である衛生管理者規程の第1条に規定があり、中学校・高等学校の保健体育もしくは保健の教諭免許状、養護教諭免許状を有する者、大学・高等専門学校の常勤の教授・准教授・講師とされています。
 また、労働安全衛生規則第62条の別表第4には、試験を受けなくても衛生管理者の免許申請ができる者が列挙されています。たとえば保健師は、この別表第4の規定にもとづいて衛生管理者規程第2条にリストアップされているので、申請すれば衛生管理者になることができます。

 衛生管理者の業務は、総括安全衛生管理者の指揮のもと、前回お話しした総括安全衛生管理者の5つの業務のうち衛生にかかる技術的事項を管理することです(労働安全衛生法第12条)。具体的な職務については、表2に例示してあります。このように、法制度上、衛生管理者は事業場の衛生管理にかかわる実務のすべてを実行する者として位置付けられています。
 なかでも、職場巡視は衛生管理者にとって必須の業務です。衛生管理者は、少なくとも週1回は巡視を行って、設備、作業方法、衛生状態をチェックします。その結果有害のおそれがあると判断した場合は、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を直ちに講じる義務があります。事業者は、衛生管理者にその措置をなしうる権限を与えなければなりません(労働安全衛生規則第11条)。さらに、衛生管理者は衛生委員会の必須の構成員であり、会の運営を担います。
 衛生管理者には、このように大きな期待が寄せられているのですが、現実の問題として、活動実績の乏しい“名ばかり衛生管理者”が少なくないことも指摘されています。衛生管理者の積極的な活動が、その事業場の産業保健活動の活性化に欠かせないことは言うまでもありません。

 衛生管理者の実務についてさらに理解を深めるには、1994に出版され、つい最近改訂第7版が出た「産業医の実務」(中央労働災害防止協会)が参考になります。

表1 法令で定められた有害業務(労働基準法施行規則第18条)

  1. 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
  2. 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
  3. ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
  4. 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
  5. 異常気圧下における業務
  6. 削岩機、鋲打機等の使用によって身体に著しい振動を与える業務
  7. 重量物の取扱い等重激なる業務
  8. ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
  9. 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二酸化炭素、青酸、ベンゼン、アニリン、その他これに準ずる有害物の粉じん、蒸気又はガスを発散する場所における業務
  10. 前各号のほか、厚生労働大臣の指定する業務*

*労働基準法施行規則第18条に関するもっとも古い旧労働省労働基準局長通達は、昭和22年基発第1178号ですが、Iについての言及はありません。およそ20年後に、昭和43年基発第223号が出ているのですが、やはりIについての言及はありません。この通達以降は、検索しても関連する通達がみつからないため、Iとして指定された業務があるかどうか不明です。

表2 衛生管理者の職務(例示)

1.総括的な職務

  1. 衛生管理業務の企画立案
  2. 衛生管理体制の整備
  3. 各種規定などの整備
  4. 労働衛生活動の実施とその評価
  5. 安全管理部門など事業場内の他部門との連携、事業場外資源との連携、労働基準監督署への対応
  6. 情報、資料などの管理
  7. 公報
  8. 障害者対応
  9. 衛生委員会の構成員となり、委員会活動を推進
  10. 喫煙対策、長時間労働対策、リモートワーク対策などの個別対策
  11. 予算管理

2.作業環境管理にかかわる職務

  1. 有害物質、有害エネルギーの管理と対策
  2. 一般衛生対策(室温、換気、採光、照明、騒音、休憩・休養施設、食堂)
  3. 快適な職場環境の形成

3.作業管理にかかわる職務

  1. 作業方法の改善
  2. 疲労やストレスが顕著な職務の把握とその対策
  3. 施設設備のメインテナンス

4.健康管理にかかわる職務

  1. 事業場のヘルスサーベイランス
  2. 健康診断
  3. 疾病管理
  4. 健康の保持増進
  5. 健康相談
  6. 救急処置

5.労働衛生教育にかかわる職務

  1. 労働衛生教育の計画作成
  2. 小集団活動、危険予知訓練などの実施

このコラムの執筆者プロフィール

河野慶三先生

河野 慶三 氏(新横浜ウエルネスセンター所長)

名古屋大学第一内科にて、神経内科・心身医学について臨床研究。
厚生省・労働省技官として各種施策に携わる。
産業医科大学、自治医科大学助教授など歴任。
富士ゼロックスにて17年間にわたり産業医活動。
河野慶三産業医事務所設立。
日本産業カウンセラー協会会長歴任。
平成29年より新横浜ウエルネスセンター所長に就任。