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【 第9回 】健康診断の事後措置
2021年 11月2日(河野慶三コラム:通算 第39回)

第9回健康診断の事後措置の画像

 健康診断を行っても、結果が活用されなければ意味がありません。労働安全衛生法は、つぎの2つの措置の実施を事業者に義務づけています。1)は強制規定、2)は努力義務規定です。

  1. 異常の所見のある者については、医師に就業上の措置に関する意見を求め(法第66条の4)、その意見を勘案して適切な措置を行うこと(法第66条の5第1項)
  2. 医師または保健師による保健指導を行うこと(法第66条の7)

 就業上の措置の実施方法については、法第66条の5第2項にもとづき「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(健康診断結果措置指針公示第9号、平成29年)が出されています。

1)異常の所見のある者に対する就業上の措置

 健康診断を実施した医師は、異常の有無を判定し、異常のある者については要観察、要医療の診断区分をつけて事業者に報告します。事業者は、この報告で異常ありとされた者について、産業医またはそれに代わる医師に就業上の措置について意見を聴きます。事業者が医師に求める意見は、就業区分(通常勤務・就業制限・要休業)作業環境管理・作業管理に関することの2つです。 就業制限の内容については、つぎのように例示されています。

  1. 労働時間の短縮
  2. 出張の制限
  3. 時間外労働の制限
  4. 労働負荷の制限
  5. 作業の転換
  6. 就業場所の変更
  7. 深夜業の回数の減少
  8. 昼間勤務への転換

 医師の意見は、健康診断個人票の様式の「医師等の意見欄」に記入してもらいます。医師の意見を受けて、事業者は当人と面談し、就業上の措置を決定するのですが、労働者がその措置を望まない事態も想定されます。指針は、事業者に、当該労働者と十分話し合って労働者の了解を得るよう努めることを求めています。

 作業環境管理・作業管理に関することを含めて、法制度上、衛生管理者あるいは衛生推進者がこのプロセスの実務を担当し、安全配慮義務の実行責任を負っている管理監督者が具体的な措置を実施します。具体的な措置の実施には、部門をまたがる配置転換など、人事担当者との協働が必要な場合もあります。

 産業医あるいはそれに代わる医師にとって、就業上の措置について意見を述べる前に、その労働者の管理監督者と面談して現場の状況を把握するとともに、管理監督者に就業上の措置の必要性を理解してもらうように努めることが、措置の的確な実施を促すうえで重要です。

 また、指針は、健康診断の結果にもとづく措置が、健康の確保に必要な範囲を超えて当該労働者に対して不利益をもたらすものであってはならないと規定し、健康診断の結果を理由として、

  1. 解雇すること
  2. 期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないこと
  3. 退職勧奨を行うこと
  4. 不当な動機・目的をもってなされたと判断されるような配置転換または職位(役職)の変更を命じること
  5. 労働契約法などの労働関係法令に違反するその他の措置を講じること

を禁じています。

2)医師または保健師による保健指導

 保健指導の目的は、労働者の自主的な健康管理を促進することです。指導の対象は「健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者」とされています。1)の就業上の措置の対象者は「異常の所見があった者」限定ですが、この保健指導は、異常の所見がなくても、事業者が必要と認めれば対象となります。どのような場合に必要と認めるかについては、衛生委員会で審議し、あらかじめ決めておくとよいでしょう。その例としては、異常の所見がなくても検査結果に明らかな変動がみられた者があげられます。
 保健指導の内容として、指針はつぎの事項を例示しています。

  1. 日常生活面での指導
  2. 健康管理に関する情報の提供
  3. 健康診断にもとづく再検査、または精密検査
  4. 治療のための受診勧奨

 健康診断の事後措置に関する労働安全衛生法の条文を抜粋して、別表に示しておきます。

別表 労働安全衛生法の健康診断にかかわる規定

(健康診断)
第66条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第66条の10第1項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。
  1. 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。
  2. 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、歯科医師による健康診断を行なわなければならない。
  3. 都道府県労働局長は、労働者の健康を保持するため必要があると認めるときは、労働衛生指導医の意見に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、事業者に対し、臨時の健康診断の実施その他必要な事項を指示することができる。
  4. 労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。
(自発的健康診断の結果の提出)
第66条の2 午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時まで)の間における業務(以下「深夜業」という。)に従事する労働者であって、その深夜業の回数その他の事項が深夜業に従事する労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当するものは、厚生労働省令で定めるところにより、自ら受けた健康診断(前条第5項ただし書の規定による健康診断を除く。)の結果を証明する書面を事業者に提出することができる。
(健康診断の結果についての医師等からの意見聴取)
第66条の4 事業者は、第66条第1項から第4項まで若しくは第5項ただし書又は第66条の2の規定による健康診断の結果(当該健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない。
(健康診断実施後の措置)
第66条の5 事業者は、前条の規定による医師又は歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、当該医師又は歯科医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成4年法律第90号)第7条に規定する労働時間等設定改善委員会をいう。以下同じ。)への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
  1. 厚生労働大臣は、前項の規定により事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
  2. 厚生労働大臣は、前項の指針を公表した場合において必要があると認めるときは、事業者又はその団体に対し、当該指針に関し必要な指導等を行うことができる。
(健康診断の結果の通知)
第66条の6 事業者は、第66条第1項から第4項までの規定により行う健康診断を受けた労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該健康診断の結果を通知しなければならない。
(保健指導等)
第66条の7 事業者は、第66条第1項の規定による健康診断若しくは当該健康診断に係る同条第5項ただし書の規定による健康診断又は第66条の2の規定による健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うように努めなければならない。
  1. 労働者は、前条の規定により通知された健康診断の結果及び前項の規定による保健指導を利用して、その健康の保持に努めるものとする。

このコラムの執筆者プロフィール

河野慶三先生

河野 慶三 氏(新横浜ウエルネスセンター所長)

名古屋大学第一内科にて、神経内科・心身医学について臨床研究。
厚生省・労働省技官として各種施策に携わる。
産業医科大学、自治医科大学助教授など歴任。
富士ゼロックスにて17年間にわたり産業医活動。
河野慶三産業医事務所設立。
日本産業カウンセラー協会会長歴任。
平成29年より新横浜ウエルネスセンター所長に就任。