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【 第13回 】
心の健康問題により休業した労働者の職場復帰の手引き
2022年 3月10日(河野慶三コラム:通算 第43回)

第13回心の健康問題により休業した労働者の職場復帰の手引きの画像

1.手引きの位置づけと概要

 「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰の手引き」は、厚生労働省が2004年に出したもので、現在用いられているのは2014年の改訂版です。これは、「職場復帰支援を事業者の立場でどう進めるか」という視点で書かれた文書であり、手引きには法的な拘束力ははありません。しかし、長く使われてきたこともあって、メンタルヘルス不調者の職場復帰の実質的なガイドラインとして機能しています。

 精神疾患の多くは身体疾患と違い、治癒の判定が困難です。そのため、精神医学では通常、症状がおおむね消退した状態を寛解、寛解が半年以上続くと回復と言っています。手引きには、「軽減又は配慮された一定レベルの職務を遂行でき、かつ、想定される仕事をすることが治療上支障にならないと医学的に判断されるもの」を対象とすると書かれています。寛解状態の者が対象となると考えてよいでしょう。

 手引きの構成はつぎのとおりです。職場復帰の流れを5つのステップに分け、それぞれのステップで事業者がすべきことを示しています。

  1. 趣旨
  2. 職場復帰支援の流れ
  3. 職場復帰支援の各ステップ
  4. 管理監督者及び事業場内産業保健スタッフ等の役割
  5. プライバシーの保護
  6. その他職場復帰支援に関して検討・留意すべき事項

2.職場復帰支援の5つのステップ

 職場復帰の手続きがつぎの5ステップに分けて記述されています。

  1. 病気休業開始および休業中のケア
  2. 主治医による職場復帰可能の判断
  3. 職場復帰の可否の判断および職場復帰支援プランの作成
  4. 最終的な職場復帰の決定
  5. 場復帰後のフォローアップ

 「メンタルヘルス不調の治療には、月単位の時間がかかるのが普通です。ですから、休業中のケアが必要となります。しかし現在でも、それが的確に行われていない事例に遭遇することが珍しくありません。復帰後のケアがうまくいっていないにもかかわらず適切な対応が行われていないために、再度休業となる事例も少なくありません。ステップ(1)(5)の重要性を再度認識することが必要です。

3.職場復帰支援プログラムと職場復帰支援プラン

職場復帰支援プログラムと職場復帰支援プランは、それぞれつぎのように定義されています。

職場復帰支援プログラム:
個々の事業場における職場復帰支援の手順、内容及び関係者の役割等について、事業場の実態に即した形であらかじめ当該事業場で定めたもの。

職場復帰支援プラン:
職場復帰をする労働者について、労働者ごとに具体的な職場復帰日、管理監督者の就業上の配慮及び人事労務管理上の対応等の支援の内容を、当該労働者の状況を踏まえて定めたもの。

 職場復帰支援プログラムは、職場復帰の考え方と施策を、あらかじめそれぞれの事業場で決めたものとされています。ただ、規模の大きい企業では、事業場間で生じる差異を少なくするために、原則あるいは基本的な事項は企業の全社方針として定め、実際の運用は支店や工場などの現場に任せる形のところが多くなっています。いずれにしても、このプログラムの内容を労働者全員に事前に周知しておくことが大切です。労働者が休業する際にはあらためてその内容を説明し、休業者の休業中の気がかりや不安を軽減することに努めることとされています。

 職場復帰支援プランは、休業していた労働者個人に対して復帰のための具体的な内容を示す文書です。管理監督者は、この内容に沿って復帰者のマネジメントを行います。現実にはプランどおりにいかないことも多いのですが、遂行状況を評価しながら、柔軟に運用します。

4.主治医との連携

 治療は患者である労働者と治療を担当する医師との診療契約にもとづいて行われるものなので、産業医が治療に口をはさむことは差し控えることが原則です。しかし、産業医としても、労働者が主治医にどのような話をしているのか、それを受けて主治医がどのような考えで対処しているのか、予後をどう考えているのかなどの情報を休業中に得ておきたいところです。こうした情報は、休業の長期化を防ぎ、復帰時のトラブルを少なくすることに大きく役立つからです。

 けれども、健康情報のやりとりは個人情報保護法上、本人の同意がないとできません。私はその対策として、@主治医の診断書を見たこと、それに対して会社としてどう対応したかを伝える簡単な手紙を書き郵送する A職場復帰支援プログラムで、休業中の継続的な産業医面談を制度化しておくことの2点を産業医にお勧めしています。Aは休業中のケアの場としても機能します。具体的な内容はつぎのようなものです。情報のやり取りは、原則として休業中の労働者の話を聴いたり、話をしたりすることで行います。もちろん必要が生じれば、本人の同意を得て主治医宛ての照会状や依頼状を書くことはありますが、経験上その頻度は多くありません。

  • 入院中などを除き、2週から4週に一度、労働者に会社にきてもらって面談する。
  • 健康状態、生活リズム、治療薬、薬の効果や副作用の自覚、受診時の主治医との対話内容などを聴きとる。
  • 労働者が主治医の説明などをよく理解していない場合は、主治医の考えに沿う形で話をし、理解を深めてもらう。
  • 産業医面談の内容を主治医に伝えてもらう(主治医の希望がある場合は、会社の方針や産業医の考え方も含む)。

このコラムの執筆者プロフィール

河野慶三先生

河野 慶三 氏(新横浜ウエルネスセンター所長)

名古屋大学第一内科にて、神経内科・心身医学について臨床研究。
厚生省・労働省技官として各種施策に携わる。
産業医科大学、自治医科大学助教授など歴任。
富士ゼロックスにて17年間にわたり産業医活動。
河野慶三産業医事務所設立。
日本産業カウンセラー協会会長歴任。
平成29年より新横浜ウエルネスセンター所長に就任。