【 第14回 】
ストレスチェック制度を推進するためのヒューマンリソース
2022年 10月13日(河野慶三コラム:通算 第44回)

ストレスチェック制度については、人事総務向けの第41回で説明しました。
厚生労働省が2021年に行った「令和3年 労働安全衛生調査」(2022年7月発表)によると、規模50人以上の事業所で「何らかのメンタルヘルス対策」を行ったのは調査対象の94.4%、そのうちの95.6%が取組内容としてストレスチェックをあげていました。調査対象事業所の90.2%でストレスチェックが行われたことになり、数字上はこの制度が定着したと言っていいでしょう。ただ、ストレスチェックの結果がどう活用されているかについては、あまり情報がありません。
この制度は2015年12月1日に始まったので、今年は第8回です。現在、実施に向けた準備を進めておられる担当者もいらっしゃることでしょう。ストレスチェックでは、個人情報保護の観点から、調査で得られた情報の管理を徹底することが強く求められていますが、回数を重ねてくると、「例年どおり」ということになりがちなので、注意しましょう。
そこで今回は、ストレスチェック制度を推進するためのヒューマンリソースについてあらためてお話します。
ヒューマンリソースとしては、つぎの4者の選任が必須です。ストレスチェック制度の法的な実施責任を負っている事業者が指名することになっています。
- ストレスチェック制度担当者(制度担当者)
- ストレスチェック事務従事者(事務従事者)
- ストレスチェック実施者(実施者)
- 面接指導担当医師(面接指導医)
1)ストレスチェック制度担当者
ストレスチェック制度担当者の役割は、事業者の命を受けて、事業所でストレスチェックを行うための体制づくり、制度づくり、実施計画の作成、実施の管理を行うことです。労働基準監督署への報告も担当します、制度担当者は、ストレスチェック制度の実務全般の責任者です。衛生委員会の審議でも中心的な役割を果たします。
労働安全衛生法の趣旨に照らせば、制度担当者には衛生管理者をあてることが適切です。ストレスチェック制度は、メンタルヘルス指針の内容を十分理解して運用することが必要だからです。 衛生管理者は、事業所の衛生管理に関する実務を担当する者として労働安全衛生法で規定された国家資格保有者であり、事業所の実態をもっともよく把握できる立ち位置にいます。
厚生労働省が発行しているストレスチェックマニュアルでは、制度担当者には衛生管理者あるいはメンタルヘルス指針で規定されている事業場内メンタルヘルス推進者をあてることが望ましいと記述されています。
規模の小さい事業所では、制度担当者を複数にして、体制づくり、制度づくりは総務部長や人事部長が担当することが行われています。制度担当者は、つぎに述べる事務従事者とは違って、ストレスチェックの生の情報にはタッチしないので、人事権をもつ者が担当してもかまいません。
2)ストレスチェック事務従事者
ストレスチェック制度の実務では、多くの事務作業が発生します。その中には、記入された調査票の回収、内容確認、データ入力など生のデータを扱う作業、医師による面接指導にかかわる記録の作成・保管など健康情報を扱う作業があります。
こうした作業に従事するのが事務従事者です。情報の不適切な使用を防ぐため、人事権を持つ者を事務従事者とすることは禁じられています。
3)ストレスチェック実施者
ストレスチェック実施者の役割は大きく3つに分けられます。
- ストレス評価のための質問票の作成、高ストレス者の判定基準の作成、ストレスチェックの実施、個人の判定結果の受験者個人への通知。
- 質問票の回答結果が高ストレスである者のうち医師による面接指導が必要な者を選び、そのことを受験者に通知すること。さらには、対象者に面接指導を受けるよう勧奨すること。
- 事業所全体、部署単位別の集団の分析結果を事業者に報告すること。
この役割が適切に実行されることを担保するために、実施者は医師、保健師、厚生労働大臣が定める研修を受けた歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理士のいずれかでなければならないとされています。
事業所内で体制を組むのであれば、上記の有資格者のいずれかをあてることになります。ストレスチェックは外部のサービス機関に委託することも可能です。多くの事業所がサービス機関のサービスを受けています。その場合は、サービス機関所属のストレスチェック実施者が依頼事業所の実施者となります。ストレスチェックの結果にアクセスできるのはこの実施者に限られることに注意してください。産業医など事業所内の有資格者を共同実施者として必ず選任するようにしましょう。そうしないと、事業所側にはストレスチェックの生データにアクセスできる者が誰もいないという事態が生じます(産業医であっても、個別に従業員の同意をとらないとアクセスできません)。
ところで、質問票の作成、判定基準の作成、集団分析の方法の開発は専属産業医であっても、そう簡単にはできません。嘱託産業医の場合は時間的にみてもまず無理です。そのため厚生労働省は、以前に厚生労働省の研究班が開発し、現場で多用されてきた職業性ストレス簡易調査票を使うことを推奨しています。この調査票を使ったストレスチェックシステムが公開されています。このシステムは、無料でダウンロードして使うことができ、事業所内に体制を整備してストレスチェックを行う多くの事業所で活用されています。
4)面接指導を行う医師
ストレスチェックで高ストレスと判定され、実施者から医師による面接指導が必要であると通知された受験者が、事業者に指導の実施を申し出た場合は、事業者は速やかに、医師による面接指導を実施しなければなりません。面接指導は産業医が担当することが望ましいとされているのですが、制度上は医師であれば誰でも担当できます。
面接指導を求める受験者には、メンタルヘルス不調に陥っている者も少なくありません。そのため、産業医の中には、この面接指導は精神科医に担当して欲しいと考える者もいます。しかし、面接結果にもとづく事後措置については、産業医がかかわらなければならない事例があり、そうした事例では、産業医による事後措置の経過追跡も必要です。ですから、まずは産業医が面接指導を担当し、精神疾患の診断や治療が必要と判断した者については、精神科医に紹介するという手続きを進めることが妥当でしょう。